藤田嗣治「秋田の行事」の迫力を伝える平野政吉美術館(現県立美術館)

 先日、県教育委員会が、現在の県立美術館の建物の活用方法を募集したと言う新聞記事があった。その結果、どんな意見が寄せられたかは別にして、現県立美術館が老朽化し、耐震補強工事が必要であることが、移転の理由とされていたが、実際は、使用可能であることを認めているわけであり、20億円を掛けた新美術館の建設が、一体何のためであったのか、疑問を感じざるを得ない。 

 新県立美術館の建物が建設中である現在、現美術館の建物と新美術館の建物に相応しいのはどういった利用方法、展示品であるのか、先人から受け継いだ貴い文化の継承と新しい再開発地区の活性化に相応しい展示は何かについて、一体的に新たに考え直すべきである。新県立美術館が本格的にオープンするのは、平成25年秋だというので、時間的な余裕もある。先人が残してくれた文化遺産と新しく創造する文化を組み合わせ、秋田の観光と文化の発展に貢献できる新しい地区を創る機会とし、再検討すべきである。

 現県立美術館(平野政吉美術館)の藤田嗣治の大壁画「秋田の行事」を展示している広さ500平方メートル、天井高18メートルもの大展示室は、上方からの柔らかな自然光とともに、「秋田の行事」の壁画としての魅力、迫力を伝える最高、最善の鑑賞空間といえる。「秋田の行事」を始めとした藤田嗣治作品の展示以外の利用は考えられない。

 また、万一、美術館の屋根の丸窓からの自然光に含まれる紫外線の影響を懸念する場合でも、近年の技術革新により、紫外線カットガラス、紫外線吸収のコーティング技術もあり、対応が可能となっている。  

 新県立美術館については、金沢21世紀美術館十和田市現代美術館の成功例に学び、入館者が観るだけでなく体感できる「現代アート」を中心とした展示内容が、新しい街の活性化に最も貢献できるはずだ。

 現県立美術館〜先人から受け継いだ文化遺産〜と新県立美術館〜新たな文化の創造〜が共存した、新しい観光・文化地区を秋田市に創る機会とすべきである。





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